他人の失敗から学ぶ転職裏マニュアル 転職失敗談集3

FILE:025 引継ぎノート

Kさんは、退職するベテラン営業マン・Sさんの顧客を引き継ぐことになる。その数の多さから挨拶回りだけで一杯一杯になってしまうが……。

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先輩のノート

中堅衣料品メーカーに勤めるKさんは、急に退職することが決まったS先輩の仕事を引き継ぐことになっていました。

S先輩は、営業部の中でもかなりのヤリ手。“営業の星”として毎日見るからに忙しそうにしていました。受け持ちのクライアントも群を抜いて多く、多少のムリも言える営業先も1つや2つではありません。仕事を通じて深く長い付き合いをしてきた証拠でした。

相当初速の遅い商品でも、Sさんが古馴染みの小売店に掛け合うと、

「仕方がないなぁ。ここはSさんの顔を立ててやるか」

と即座にまとめて発注してくれたことも。

それほどまでの営業マンだったS先輩の跡を継ぐというのですから、Kさんのプレッシャーは相当なものでした。まず、S先輩と共に引き継ぎの挨拶回りをするだけでも何日もかかってしまいました。

一軒一軒、小売店や卸売店のオーナーや担当者について、その都度説明や注意を受け、それを忘れないようメモしていくだけでKさんは精一杯。

そうこうしているうちに、S先輩最後の出勤日が来てしまいます。まだまだKさんには、事務方面など聞いていないことが山のようにあります。

それまでも、再三引き継ぎの時間を取ってほしいと言いかけたKさんでしたが、顔の広いS先輩の忙しさは尋常ではありません。後輩の弱みで強く出られないまま、この日を迎えてしまったのです。

KさんはうろたえながらようやくS先輩を捕まえ、次々と質問をぶつけたところ、

「ああ、そのことだったらまとめておいたから、ヒマなときこれ見て」

と手渡されたのは、一冊のノート

S先輩はこの言葉を最後に送別会へ走り去り、そこでお別れとなってしまったのです。

引き継いだ顧客

後日、手渡されたノートにゆっくり目を通したKさん。中に書かれていたのは、2、3の注意を要する顧客の説明書きと、備品の管理や書類について。多くは、

「このことは××さんが詳しい。これは△△さんに聞いた方が早い」

など、“次はどこどこへ行け”という指示ばかりで、大半のページは白紙

これにはかなりガックリしたKさん。

「でも、あんなに忙しかった人だし、手取り足取り教えてもらう方が迷惑だよな……」

と、ノートにまとめてもらっただけでも感謝しなければと思い直して、指示された人の元を順番に行脚し、仕事を引き継いでいったのでした。

それからしばらくすると、Kさんの元に外線電話がジャンジャンかかってくるようになりました。外回りの多い営業のKさん。ある夕方帰社するとデスクの上が「電話アリ、折り返し連絡ください」のメモで一杯になっていました。そして、そのすべてがS先輩から引き継いだ顧客だったのです。

「さすがにSさんはすごい!」といささか感動を覚えながらも、何の用件だろうといぶかしみ、Kさんは受話器を取りました。

「遅い!」電話の向こうの顧客は、まず一喝。相当機嫌が悪い様子です。どういう用件か分からず、メモのままに電話をしたKさんは呆然。

「いつになったら納品されるんだっ!」

と、さらに相手の怒りは続きます。

「あのー、えーっと、どういう……」

怒りの理由がさっぱり分からないKさんは、うろたえながらも大急ぎで引き継ぎノートを開きます。もしかすると、対応要注意の顧客の一人かもしれません。何か書いてあったかとページを繰っていきますが、電話の主については一文も触れられていません。

こうなったら、怒り狂っている先方に直接聞くしかありません。

「あの……お恥ずかしい話ですが、私は担当になったばかりでして。どういうことか、逆に教えていただきたいのですが……」

平身低頭で教えてもらった怒りの理由にKさんは愕然。次第に“営業の星”S先輩の実像が明らかになる……。
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文・イラスト:
山本ちず

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