他人の失敗から学ぶ転職裏マニュアル 転職失敗談集3

FILE:63 新人はワガママ王子(前編)

経験者を求める現場の制作部と、人が集まらず未経験者にも募集をかけ始めた人事部。両者が妥協して採用した人材は……。

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折り合いをつけて

 Tさんの勤務先の広告代理店A社で広告デザイナーを募集した時のことです。

 A社は決して大手とは言えない代理店。仕事の規模も大きくなく、給与も高い方ではありません。

 それゆえ、バリバリの経験者を採用することを諦め、

「未経験者でも、ヤル気とセンスのある人を……」

 とポテンシャル採用を行う方向に動いていました。

 しかし難しいのは、どうやって未経験者のセンスの良し悪しをジャッジするかということ。

 経験者ならば、過去に手がけた仕事例や作品を見て判断出来ますが、未経験者となるとそれが出来ません。

 現場の人間は

それなりの経験か、教育を受けている人が欲しい」

 と言います。しかし人事部の採用担当者は

「それでは応募者が集まらない!」

 と反論し、募集条件を甘くしました。その結果、未経験者ばかりが集まったのです。採用する側は、センスというよりも自己アピールが得意で、話術を心得ている人物に目が行きがちです。しかし現場は、口だけでなく、実力の伴う人材が欲しい。

 現場の制作部と人事部は幾度か対立を繰り返しました。

 しかし、人手不足による社員の過労は深刻だったので、とにかく人を採らなければならず、最終的には、制作部と人事部双方が妥協する形で、ある人物を選び出しました。

 その人物が、街のプリントショップで年賀状などの文字を打ち込む仕事をしていたPさん。

 ちなみに彼の“売り”はニッチなテクニックでした。

「定形15文字しか入らないところも、私なら18文字まで入れられます!」

 といったものでした。もっとも、このテクニックがA社で高く評価されたわけではありません。

 採用担当者が言うには、

「年賀状とはいえ、印刷業界にいたなら広告とまったく縁がないわけでもないし、後は制作部の方で使えるように教育してくださいよ」

 と説得。すると、現場の制作部は

「ウチの薄給じゃ、経験者は来ないよねぇ」

 と、諦めが入ったコメント。

「もう、このあたりで手を打つか……」

 としぶしぶ承諾したのが実状でした。

新人教育?

 こうしてほどほどのところで妥協されて採用に至ったPさんですが、本人はそんな舞台裏を知るよしもありません。

「あこがれの仕事! 念願だったデザイナーの仕事にやっと就けた!!」

 と期待を膨らませ、ヤル気いっぱいで職場にきたのでした。

 しかしそんな気持ちでいられたのも束の間。すぐに期待を裏切られることになったのです。

 未経験者のPさんが、最初から面白い仕事をできるはずもありません。

 当然ながら、まずは下積みとして雑用的な業務からスタート。

 朝は業界紙や新聞をチェックして必要な記事を切り抜く。

 それが終わったら、ゴミ箱と灰皿の掃除。昼はバイク便の手配と撮影のアシスタント。夕方にまた掃除。

 定時を迎えてする事が無くなっても、先輩たちが締め切りに追われて残業している中、自分だけ先に帰ることは出来ません。

 雑誌を読んだり、ネット検索をしたりしながら時間をつぶし、誰かが帰るとやっと帰宅することができました。

「こんな無駄な時間は嫌だ! 仕事らしい仕事をさせてほしい」

 Pさんの不満は次第に大きくなっていきます。

 しかし、現場の先輩たちにしてみれば、まったくの未経験者を、どのように教育してよいか分からなかったのです。

 Pさんが無駄だと思っていた時間も、先輩たちとしては、まずはじっくり業界の知識を得て欲しいと思う気遣いでした。

 メディア関連の作業を任せ、本を与え、いろいろなデザインを見てほしいと、余裕を与えていたのです。

 しかし、そんな心遣いをPさんは気づきませんでした。

 華やかで面白い仕事に実際に触れて、先輩から教わりながら、切磋琢磨して成長していけるものだと信じ込んでいたのです。

 こうした両者の意識のズレは、あっという間に表面化しました。

仕事らしい仕事を任せてもらえないPさんのイライラは頂点に。ストレスが貯まったPさんはそのウップンを晴らすために……。
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文・イラスト:
山本ちず

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